酛造り①  〜酛(もと)とは?酛の基礎と役割を知ろう〜

日本酒造りでは、精米や洗米、麹(こうじ)造り、醪(もろみ)造りなどと聞けばどんな工程なのか何となく想像できるものが多くあります。

では「酛造り」はどうでしょう?
聞いたことはあるけど何をする工程かわからない、あるいは、聞いたこともない方が大半ではないでしょうか?

今回のテーマは、酒造りの基盤となる「酛」です。

基本的な酛の話から、酛の奥深さ、そして種類などを第1回〜第3回に分けてお話していきます。

第1回では酛がそもそも何なのか、そして酛がなぜ日本酒造りに必要なのか等の基本的なお話から始めていきたいと思います。

もくじ

酛とは?〜日本酒の基盤を造る〜

「酛」とは酒の元と書き、酒を生み出す源から由来し、「酒母」とも呼びます。
では、その酛(酒母)は日本酒造りのどの部分になるのでしょうか。
そもそも日本酒造りは大きく分けて5つの工程からなります。

  1. 精米・洗米・浸漬・蒸米の原材料処理
  2. アルコール発酵に必要になる糖分を造る麹造り
  3. アルコール発酵に必要になる酵母を培養する酛造り
  4. 日本酒の大本となる醪の発酵
  5. 絞り・濾過・火入れ・瓶詰め等の発酵後の仕上げ

酒造りにおいて最も大切な工程を示す「一麹、二酛、三造り」という言葉ありますが、

  1. まず麹を造る
  2. 次に醪の土台となる酛を仕込む
  3. 日本酒の大本である醪(造り)を仕込む

という順になり、良い酒を造るには、良い麹と良い土台がなければ良い造りができないという意味です。

酛はこの土台に当たる重要な役割で、いわば、日本酒の基盤となる骨組みなのです。
例えて言うならば、キャンプファイヤーで火種がなければ大きな火はおこせないのと同じで、酛がしっかりとできていなければ、その後の醪の発酵を安全に進めることができません。

酛がなぜ必要なのか理解できたところで次に酛の造り方や具体的な役割を見ていきましょう。

なぜ酛が必要なのか?〜酛の造り方と役割〜

酛造りは醪の発酵とは違い、大きなタンクは使用せず、ドラム缶ほどの比較的小さなタンクで仕込みます。

まず、仕込み水に酵母・米麹を入れた水麹から始めます。
水麹から数時間後に放冷した蒸米をタンクに投入します。

そこから約2〜4週間かけて、温度管理と衛生管理をしっかり行い発酵させます。
この期間、酛中では様々な微生物が関与します。発酵にとって良い微生物もいれば、もちろん雑菌が入る可能性もあります。
それをふまえて、最終的に雑菌の増殖を抑え、大量に酵母だけを残さなければなりません。

醪では発酵の物量自体が大きくなるため、醪に対して酵母の量が少なくなってしまうと、酵母は雑菌に非常に弱いため繁殖する前に他の微生物に負けてしまい、安全なアルコール発酵どころか醪そのものは雑菌に汚染されてしまいます。

そこで、発酵の物量が少ない酵母が増殖しやすい環境をまず作り、他の微生物に圧倒されない酵母だけが大量にいる環境を作ることで醪でしっかりと発酵が進み安全な酒造りができるのです。

つまり、その環境作りこそが酛の役割であって、酛があるからこその醪だと言うことがわかりますね。

酛に関わる微生物

先ほど、酛造りでは様々な微生物が関与するとありましたが、次にその代表的な微生物について詳しく見ていきましょう。
そもそも、酵母は他の微生物と一緒になると淘汰されやすい(つまり雑菌に弱い)が、酸には強い特性があります。

また、一般細菌は酵母が耐えれる酸度では繁殖できない(つまり酸に弱い)性質があります。
梅干しやピクルスなどの酸っぱいものは腐りにくいのがわかりやすい例です。

ということは、酛を酸性にすれば雑菌が繁殖しない、酵母の増殖に最適な環境が作れるということになります。
そして、そこで登場するのが「乳酸」です。

実は酛造りにおいて、酵母と乳酸の関係は非常に重要で、乳酸なくして酵母の増殖は不可能といっても過言ではありません。
酛造りでは、既に醸造用に作られた乳酸を添加する方法と、乳酸菌の力を利用して乳酸を生成する方法と大きく分けてふたつあります。

醸造用乳酸を添加する方法を「速醸系酒母」、乳酸菌が生成する乳酸で発酵する方法を「生酛系酒母」といいます。
現在造られている日本酒の約10%が生酛系、約90%は速醸系酒母と、醸造用乳酸を添加する方法が主流です。

速醸系は比較的現代の手法で、その中でも「普通速醸酛」と「高温糖化酛」など、生酛系は伝統的な手法で、「生酛」・「山廃酛」・「水酛」などがあります。
酛は酒造りの基礎となるもの、酛の造り方が違えば出来上がる日本酒の味も大きく変わります。

次回の記事では、それぞれの酛の違いをさらに具体的に説明していきます。

この記事を書いた人
Momoko

大阪出身の酒ソムリエ(Sake Diploma)
日本酒好きが高じて蔵人として酒造りを経験。日本酒の魅力の多くの人に伝えるため日々活動中。

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