酛造り③  〜生酛系酒母を知る〜

前回の記事では速醸系酒母のお話をしましたが、今回は生酛系酒母に注目していきたいと思います。

もくじ

生酛造りの歴史

生酛造りの始まりは、日本最初の民間の酒造技術書「御酒之日記」から読み取るとおおよそ500〜600年前の室町時代にさかのぼります。

当時の酒造りでは、現在使用されているような3,000Lサイズのタンクはなく、500Lほどの甕や壺を使用していました。

そのことから、規模が小さく酒造りでは酒母の重要性がそれほど高くなく、一度に米・米麹・水を投入して醸す方法でした。

しかし、はっきりと酛と醪を区別したとは記されていないものの、乳酸菌の酸を利用して雑菌の増殖を抑えていたことが御酒之日記で確認されていることから生酛系酒母の始まりとなるヒントが当時すでにあったことがわかります。

江戸時代に入ると、酒の流通が全国へと広がり需要が増えたことによって、小規模醸造から現代の大規模醸造へ変化していきました。

仕込み量が増えたことから失敗が許されず、酛の重要性が高まり、一度原材料を投入する方法から、少量の発酵から少しづし量を増やす方法(段仕込み)に変化していきます。

この方々が現代の生酛造りとほぼ同様であり、この時代から生酛造りが行われていたことが確認できます。

生酛系酒母と乳酸の関わり

おさらいになりますが、酛造り①の記事でも説明があった様に、速醸系酒母と生酛系酒母の一番大きな違いは酛と乳酸の関わり方です。

速醸系酒母では、醸造用の乳酸菌を添加するのに対して、生酛系酒母の場合、乳酸を添加するのではなく乳酸菌の力を利用して乳酸を生成します。

そもそも乳酸菌は私たちが生活している身近な環境に生存しています。

例えば、ヨーグルトやチーズ、漬物などの発酵食品・植物・人の腸内・地上など様々です。

その自然界に生存する乳酸菌が、酒造りに使用する道具や蔵の壁・天井、空気を介して米麹や酛に入ることで乳酸発酵が起こり乳酸が作られる仕組みです。

蔵にいる天然の乳酸菌を使用する方法が一般的ですが、醸造用の乳酸菌を添加して乳酸を生成する方法も中にはあります。

生酛系酒母では酛をまず酸性にする乳酸発酵の期間が必要になるため発酵期間は速醸酛より2週間程長く、1ヶ月程度かかります。

また、生酛造りならではの「酛すり」と呼ばれる手作業で酛をすり潰して発酵を促す作業が必要になることから、さらに時間がかかり重労働な工程です。

速醸系と生酛系、結果的に同じ乳酸でも、どの様に生成されているかが全く異なるため、出来上がった日本酒にも大きな味の違いが生まれます。

人工的に生成された乳酸は、天然の乳酸菌に比べると発酵力が弱くなるため、酒の味や香りは比較的すっきりとしています。

一方、自然の乳酸菌によって生成された乳酸は発酵力が強いため、香りが強くしっかりした味と程よい酸味による複雑味がある酒になるのが特徴的です。

生酛造りと山廃造り

山廃造りは生酛系酒母の一種の造り方で、生酛造り同様に乳酸菌の酸を利用します。

生酛造りでは、先ぼど説明があった「酛すり」または「山卸し」と言う、麹の糖化を促すために櫂と呼ばれる長い棒で米をすり潰す作業が行われます。

しかし、山卸しは時間を要し重労働であるため、あえて山卸しを行わず、麹の糖化力のみで発酵する方法が山廃酛です。

「山卸しを廃止した酛」から略して「山廃酛」と呼ばれます。

山廃酛の味わいは生酛と同様に、しっかりと力強い味と乳酸菌による酸がコクと旨味が特徴ですが、それに加えてキノコや香木の様な微生物由来の野生的な香りがあるのも大きな特徴のひとつです。

生酛や山廃酛は様々な微生物が関与する日本酒だけあって、複雑味や味わいの奥深さ、また提供温度の幅広さに魅力があることから日本酒好きにファンが多いタイプのひとつです。

まとめ

第1回から第3回に分けて、酛の基礎知識から、歴史・種類などを紹介しました。

酛が日本酒造りの土台造りであり重要な役割であることを知った上で、それぞれ違った方法の酛で醸した日本酒を飲むと違いがはっきりとしていて、日本酒を楽しむ上で知っておくべきことだと言うとこがわかります。

日本酒を選ぶ際は精米歩合や特定名称酒を見ることが多いですが、それに加えて「酛」に注目してみることで、更に奥深く違った視点から日本酒を楽しむことができます。

この記事を書いた人
Momoko

大阪出身の酒ソムリエ(Sake Diploma)
日本酒好きが高じて蔵人として酒造りを経験。日本酒の魅力の多くの人に伝えるため日々活動中。

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